2002 年 46 巻 1 号 p. 23-27
雄性不稔細胞質を持つイネでは, 稔性回復遺伝子 (Rf) が存在しても, 変形葯や不裂開が多発する傾向にあることが観察された.このような異常葯の発生量は系統によって異なるだけでなく, 同一系統内の稔性回復遺伝子ホモ型とヘテロ型間にも違いがあるようであった.異常葯の発生は当然種子稔性の低下を引き起こすはずである.本実験では3つの系統RT61C, RT98CおよびRT102Cを用い, ホモ型 (RfRf) 個体およびヘテロ型 (Rfrf) 個体における頴花ごとの変形葯の発生量および葯裂開性を調査し, それらが種子稔性に及ぼす影響を調べた.なお, 供試3系統は異なるOryza rufipogonの系統に栽培稲の台中65号を連続戻交雑することにより育成されたものであり, いずれもO.rufipogon由来の雄性不稔細胞質および単一の稔性回復遺伝子をもつことがわかっている.
稔性回復遺伝子がホモ型の場合には, どの系統でも6本全ての葯が変形している頴が少なく, 葯の裂開も良好であったため高い種子稔性を示した.すなわち, 稔性回復遺伝子をホモに持つ場合, 変形葯の発生や葯不裂開は種子稔性に影響を及ぼすほどの作用はないことがわかった.一方, ヘテロ型では, 葯裂開率が低く, 系統によっては6本の葯すべてが変形している頴花が多数あるものがあった.また花粉自身の受精能力が低下していると考えられる系統もあった.これらの要因により, ヘテロ型においては一般に種子稔性が低くなった.しかしヘテロ型でも種子稔性があまり低下しない系統もあり, そのような系統はハイブリッドライス育成のための良い素材となるものと考えられる.