2023 年 28 巻 1 号 p. 1_160-1_165
多様な専門家の協働によって複雑化する社会問題を解決する機会が増えている。この協働における経験や出来事、議論を視覚化する手法としてグラフィックレコーディング(以下、GR)がある。参加者の発言や行為、その時の表情を視覚化したGRは振返りの道具として活用されてきた。共著者の高畠は、映画やゲームの体験において消化しきれない一瞬の心の動きを殴り書きで記録し、体験後に見返す習慣があった。高畠にその動機を尋ねると、リアルタイムで描かれた殴り書きには、出来事を見た瞬間の感覚や情感(以下、情動)を鮮烈に喚び起す効果があるという。筆者らはこのような情動を見える化する殴り書きの記録手法が協働的な活動の振返りに活かすことができるのではないかと考え、行政や学術団体での協議の場において、殴り書きレコーディングの実践を試みた。その結果、この手法には〈場面の鮮烈な回想〉〈議論の内省的な理解〉〈文脈の協働的な自他理解〉の効果があることがわかった。本稿では一連の記録実践の省察からオラレコの効果を分析し、情動の殴り書き記録を用いた社会的なデザインの知恵と技を明らかにする。