2007 年 10 巻 5 号 p. 539-545
症例は中等度の知的障害をもつ29歳男性。急激に進行する意識障害を主訴として当院に救急搬送された。血液検査では肝障害を伴わない著明な高アンモニア血症を,頭部CTスキャン像ではびまん性の脳浮腫を認め,脳波は高度に低振幅・徐波化していた。来院後,分枝鎖特殊アミノ酸製剤とglycerolを用いた対症療法を行いつつ全身管理に努めた。入院12時間後,アミノ酸代謝異常症である成人発症Ⅱ型シトルリン血症の疑診を得た。そのため診断的治療としてL-Arginine製剤の投与を開始,glycerolをD-mannitolに切り替えた。その結果,意識障害は短期間で改善,第27病日には病前と同じADLで独歩退院した。成人発症Ⅱ型シトルリン血症は,10~20万人に1人発症するといわれる比較的まれな常染色体劣性遺伝のアミノ酸代謝異常症であり,成人になって急性発症するという特徴がある。1999年小林らによって原因遺伝子が同定されたが,統計上では変異ホモ接合体は2万人に1人以上と算出されている。この乖離の原因として,みかけ上健康な生活を送っている潜在的な患者も多くいることが予想され,意識障害患者を診療するうえで,貴重な一症例と考えたため若干の考察を加えて報告する。