日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
公衆衛生活動報告
埼玉県熊谷保健所の腸管出血性大腸菌O157による食中毒事例への対応
土屋 久幸桑原 由美子浅井 澄代岸本 剛中島 守
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 65 巻 9 号 p. 542-552

詳細
抄録

目的 2017年8月,熊谷市と深谷市内で腸管出血性大腸菌O157(以下「O157」という。)による食中毒事例が発生した。これに対して,熊谷保健所は埼玉県の担当部署と協力して対策を講じた。本経験は公衆衛生活動として公衆衛生関係者に共有すべき貴重な事例であると考え,報告する。

方法 8月14日から24日の間に感染症法の発生届のあった患者に対し保健所職員が患者宅を訪問し,「患者に対する調査」と「患者および家族の喫食・行動等調査」を行った。さらに,総菜販売店に立ち入り,原因食品等の製造・調理・加工の工程,施設の衛生管理状況,従業員の衛生管理の調査を実施した。

活動内容 O157の患者は13人(7家族)だった。患者の発症月日の調査では8月11日が最多5人で,1峰性を示した。O157が検出された患者便のベロ毒素は2型,遺伝子型はすべて完全に一致した。保健所の疫学調査にて熊谷市内の総菜販売店で加工販売されたポテトサラダが原因食品であると判断した。そこで,保健所は販売店に対する行政処分(営業停止3日間),施設の消毒の指導,調理従事者の衛生教育,県庁を通じて報道発表を行った。

 さらに,ポテトサラダが汚染された原因として,その材料である「ポテトサラダの素」の汚染の可能性が否定できなかった。野菜を原因とする食中毒調査は野菜の保存期間が短く細菌調査が困難である。しかし,丹念な疫学調査により原因食品の推定は可能である。本事例では保健所と衛生研究所・県庁が探知の早期から原因調査事業に基づき連携して対応したことで,疫学調査,菌の遺伝子型分析,更にそれを統合した情報解析が効果的に作用した。

 なお,本事例は平成29年7月から関東地方を中心に発生したO157(ベロ毒素2型,遺伝子型は同一)の広域的な集団感染の一部であることが判明した。

結論 今回,熊谷保健所管内で発生したO157食中毒事例で丹念な疫学調査により原因食品が推定できたことは成果であった。当該事例と同時期に自治体を跨ぐ広域的な集団感染が発生したが,共通の原因は明らかにならなかった。このような事例では早期から国と都道府県間で情報の共有や連携した対策が必要であると考えられた。

著者関連情報
© 2018 日本公衆衛生学会
前の記事 次の記事
feedback
Top