日本生気象学会雑誌
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1990年京都大学ヒマラヤ医学学術登山隊の隊員に見られた高所網膜出血 (HARH) について
中島 道郎斎藤 惇生遠藤 克昭松林 公蔵
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1991 年 28 巻 2 号 p. 107-115

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抄録

1990年京都大学ヒマラヤ医学学術登山隊において合計41例の眼底写真を撮影した.これを過去1度でも海抜5, 000mに到達したことのある群 (HE) と, 5, 000m到達は今度が初めてという群 (NC) に分けてみると, 高所網膜出血の発症率に明かな差がある.例えば, 6, 000m以上に登ったNCはその89%に明かな両眼出血が認められたのに, HEでは8, 000m以上に登った者の53%に軽微な出血を認めたのみで, 明かな両眼出血は11%に過ぎなかった.1976年浅野はレーニン峰で13名のNC全員に, 1980年黒滝もテラムカンリIII峰で8名のNC全員にこれを認めたと報告し, 1976年クラークもエヴェレストでNCとHEの発症率の差を報告している.これらのことから, 初めて海抜5, 000mの高地に到達した人にとって, 高所網膜出血の発症率は極めて高く, 殆どが網膜に出血を見る, しかし二度目以降は出血しないか, しても軽症で済む, ということが言える.この現象は, 高山病ではなく高所反応の一種と考えたい.

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