日本考古学
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星糞峠縄文時代黒耀石採掘鉱山の研究
長野県鷹山遺跡群
安蒜 政雄島田 和高
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2001 年 8 巻 11 号 p. 123-132

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抄録

長野県中部高地に位置する星糞峠黒耀石原産地には,旧石器時代から縄文時代にかけて形成された鷹山遺跡群が立地している。1991年には,星糞峠縄文時代黒耀石採掘鉱山(採掘址群)の存在を確認した。そののち,1992から99年にかけ発掘調査と測量調査を継続して実施し,縄文時代草創期および後期の黒耀石原石採掘場,そして採掘原石の一次的な加工を行った草創期の石器製作址などを発掘した。鉱山は約45,000m2の面積に達し,地表面にはクレーター状の凹み地形195余基が,採掘活動の痕跡として現在においても累々と遺存している。
これまでの発掘調査で,一つの採掘址の地下には,黒耀石鉱脈に達する複数の竪坑が切り合い関係をもって存在することが分かった。また,竪穴の段掘りによる竪坑の掘削方法が復原され,縄文時代の地下採掘に要した土木技術の一端を復原することもできた。地表面にみられる採掘址は,竪坑群掘削時の採掘排土が各竪坑に流入あるいは投棄されて堆積した結果であり,人為的に形成された地形である。採掘対象となった黒耀石鉱脈は地下の包含層としてあり,現在の地表面には露出していない。
鉱山活動の規模を示す一例として,星糞峠鞍部で採掘排土の堆積状況を面的に追跡したところ,採掘作業により掘削された地山ロームの上に堆積する採掘排土が1~2mの層厚に達することを確認した。第39号採掘址や平面発掘された01号竪坑の最下底部も,黄褐色ローム層を掘り込み,現地表面から約2.5mに達している。
星糞峠鞍部で発掘された石器製作址は,竪坑などの遺構が多数切り合うなかで,膨大な量に達する両極剥離痕をもつ石器,残核,原石,剥片,砕片そして石器加工具である多孔台石と敲石からなる石器群の出土で特徴づけられる。石器群と各遺構には,草創期後半に比定される刺突・押圧縄文土器群と回転縄文土器群が共伴している。ただし層位的には両土器群は一括出土している状況である。本論では,これまでに判明した鉱山活動の諸側面をまとめ,あわせて今後の課題を整理し,鉱山総合調査にむけての指針を得ることにする。

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