小児理学療法学
Online ISSN : 2758-6456
整形外科疾患・染色体異常
生後6ヶ月で上肢リーチング動作が出現した13トリソミー児の一症例
阿部 純平小野 洋子楠本 泰士飯沼 香織宍戸 啓太大内 一夫佐藤 真理
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2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 70

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抄録

【はじめに、目的】

13トリソミーは、13番目の常染色体異数性疾患であり、出生児の約10,000~20,000に1人と言われている。先天性心疾患など多彩な合併症を呈し、1年生存率は約8~10%である。生命予後不良として、従来は積極的な治療が行われてこなかった。しかし近年、積極的な治療により生命予後が改善するとの報告が増 加しており、長期的に理学療法士が関わる事例もみられている。 13トリソミー児は、精神運動発達遅滞を呈する一方、精神発達 は生涯成熟し続けるとの報告もある。しかし、運動発達に関しての報告は少ない。今回、発達過程において生後6ヶ月で上肢 リーチング動作が出現した児を経験したので報告する。

【方法および症例報告】

在胎37週5日、体重3150g、自然分娩で出生の男児。Apgar score3/8、合併症は、臍帯ヘルニア、臍腸管瘻、左多指症、耳 介低形成、動脈管開存症、肺高血圧症、気管軟化症、てんかん。 手術歴は人工肛門造設、人工肛門閉鎖術、左多指症に対し結紮術、気管切開術。呼吸器設定SIMV、栄養は経管にて注入。眼 科は異常なし、聴覚検査は両側高度難聴。生後約12ヶ月で他院転院。

【結果および経過】

生後約1ヶ月から12ヶ月まで5/wの頻度で理学療法介入を実施。循環、呼吸状態が安定した生後3ヶ月時を初期理学療法評価と した。非対称性緊張性頚反射、把握反射+。固視、追視+。音に対する反応-。触覚刺激に対する反応+。ハマースミス乳幼児神経学的検査の合計スコアは20点で、特に姿勢、運動、反射と反応の項目において低値を示した。生後4ヶ月時に両上肢でのプレリーチングが出現。理学療法プログラムとして、四肢・体幹ROM̶EX、マッサージ、肺理学療法、頸部回旋練習、介助座位、上肢リーチング練習を行った。上肢リーチング練習では、座位保持装置を用い、体幹が安定した状態で、他動的なリーチングの後おもちゃを触るという触覚刺激が入るように行った。その後、自動的なリーチングを促すようにした。また、リーチング練習をご家族にも指導した。環境設定として、本症例が座位保持装置にて座位姿勢をとっている間、見える、触れる位置におもちゃをぶら下げるように設置した。生後6ヶ月時では、ハマースミス乳幼児神経学的検査の合計スコアは44点で、 姿勢、筋緊張の項目において顕著に向上し、視性立ち直り反射、体幹に働く体幹の立ち直り反射が出現した。また、頻度は少な く、流動的だがおもちゃへの片手リーチングが出現した。

【考察】

本症例は13トリソミーであり、一般的には重度の発達遅延を呈するが6ヶ月時にリーチング動作が出現した。要因として、一つ目は姿勢制御機構の構築である。二つ目は、単なるリーチングの反復練習ではなく、触覚や視覚などの外受容感覚を適切に利用したリーチング練習により運動感覚と外受容感覚の統合に寄与したためと考える。上肢のリーチング動作は、動作を通じて環境を探索し、認知的、知覚的、および社会的発達を促進させることができるため、動作獲得は非常に重要と思われる。

【倫理的配慮】

発表に際しヘルシンキ宣言に基づき、対象の親に説明し、同意を得た。

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