小児理学療法学
Online ISSN : 2758-6456
家族・学校
ランドセル症候群の児童の歩行と走行の特徴  ― 福島子どもコホート調査 ―
楠本 泰士髙橋 恵里浅尾 章彦遠藤 康裕小俣 純一横塚 美恵子矢吹 省司神先 秀人
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2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 100

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抄録

【はじめに、目的】

小学生の約3 割が、ランドセルを背負って痛みを感じたことがあり、ランドセル症候群 (Backpack syndrome:BS)が懸念されている。BSとは、自身の身体に合わない重さや大きさのランドセルを背負ったまま長時間通学することによる身体と心の不調を意味する。2018年のセイバン社による2000組の調査では、 1週間のうち最も重い日の荷物の平均重量は4.7 kg、2022年のフットマーク社による1200組の調査では、ランドセルと荷物の平均の重量は4.28 kgと報告されている。BSの児童の心 身機能や荷物の有無による歩行、走行の特徴が明らかになれば、小学生への予防的関りが可能となる。 そこで本研究では、福島市内の小学生のBSの児童の足部機能と荷物の有無による歩行、走行の特徴を明らかにすることを目的とした。

【方法】

本研究は横断研究とし、福島市内の全小中学校の児童、生徒に募集チラシを配布し、対象者を募集した。75名が参加し、分析対象者は、データ欠損のある者、中学生、療育利用者を除外した51名の児童 (6~12歳)とした。通学時の肩腰痛、現在の肩腰痛の有無を調査し、対象を通学時と現在に肩腰痛の有る児をBSと定義し、その他を対照群とし、2群にて分析を行った。 測定項目は、フットプリントを用いて足幅、外反母趾角、座位と立位でのアーチ高率、足指筋力測定器 (竹井機器工業社製)を用いた足趾把持力、Gait up (Gait up SA社製)を用いて歩行・走行の速度、ストライド長、ケイデンス、踵接地角度、足底の離床角度とした。歩行・走行は、10m歩行テストと同様の設定で 16mの直線歩行路にて2回測定し、平均値を分析に用いた。歩行速度は快適速度、走行速度は最大速度とした。今回は、何も背負っていない歩行・走行と、セイバン社の調査を基に6kgの重さにしたランドセルを背負った歩行・走行の計4種類を測定した。 2群間の違いをt検定、カイ二乗検定、フィッシャーの正確確率検定、一般化線形混合モデル (GLMM)およびBonferroniの多重比較検定にて検討した。統計処理にはIBM SPSS Statistics Ver.27を使用し、有意水準を5%とした。

【結果】

BS群は15名 (29.4%)、対照群は36名 (70.6%)で、2群間で年齢や足部機能に差はなかった。GLMMの結果、歩行と走行の速度にて、ランドセルの有無に主効果があったが、走行時のみBSの有無とランドセルの有無に交互作用が確認された。歩行のストライド長は主効果と交互作用はなかったが、走行のストライド長ではランドセルの有無に主効果があり、交互作用が確認された。歩行と走行共に、踵接地角度、足底の離床角度は、ランドセルの有無に主効果があった。 BS有り群の走行ではランドセルの無し、有りの順に、平均速度は3.57、3.27 m/sec、平均ストライド長は2.15、1.93 m、BS無し群の平均速度は3.35、3.31 m/sec、平均ストライド長は 1.89、1.83 mだった。

【考察】

全対象におけるBSの割合は、先行研究に類似していたBSの2群間で、明らかな足部機能の差はなかったが、ランドセル有りの歩行走行で、立脚期のパラメータが変わること、ランドセル有りの走行では、BSの有無にて速度やストライド長は変化が異なることが示唆された。

【倫理的配慮】

本研究は福島県立医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。対象者には口頭と文書にて説明し、同意を得て実施した。本研究への協力を断っても、何ら支障のないことを書面にて伝えた。

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