スポーツ社会学研究
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特集
ワールドラグビーによるラグビーの統治とその思想
―ラグビーの多様化と価値の生成―
松島 剛史
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2019 年 27 巻 1 号 p. 25-40

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抄録

 「スポーツ」とは、一般的に多種多様な運動競技、ゲームの総称であるが、ありとあらゆる活動を全世界的に統括する組織は存在しない。現状では数多くの国際スポーツ組織がそれぞれの種目を統括する中で、「スポーツ」全体の世界がかたちづくられているというのが妥当であろう。ワールドラグビーとは、15 人制から7 人制のゲーム、また他の競技では見られないナショナル代表選手の資格規定をもつなど、ラグビーユニオンのユニークな世界をグローバルに統治する機関である。
 本稿は、1980 年代からワールドラグビーがいかなる経緯から世界のラグビーを一つにまとめることを目指し、どのような目的や方法によってその世界を発展させようとしたのかを明らかにするものである。ワールドラグビーは、ラグビーとはどうあるべきかという規範と価値を掲げ、メンバーがその実現にコミットして活動し、その結果に基づいてラグビーの世界を治める集合体であった。言い換えれば、ワールドラグビーは、ラグビーの統治において道徳や価値観を持ち込み、形式的にメンバーの自由を拘束するだけでなく、ラグビーの理想的な発展という共通の利益に向けた献身やメンバー間の強いつながりを重視する方法を採用していた。また、当時のワールドラグビーの活動をひも解けば、その勢力圏を拡大する過程で、女性や若者、7 人制ラグビーなどの包摂を通じて国際競技会事業を多様化し、またそれらの社会的価値を向上させる取り組みをおこなっていた。
 こうした活動の背景からは、アマチュアステータスがほころびを見せ、ラグビーの世界の分裂や混乱が危惧される中にあって、ラグビーを自己利益の手段、あるいは自由な操作の対象とみなす組織内外の圧力から守り、内発的かつ持続的な発展を志向するワールドラグビーの姿が浮かび上がってくる。

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© 2019 日本スポーツ社会学会
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