1999 年 38 巻 3 号 p. 221-225
膀胱腫瘍患者の自然尿における“pair cell (PC)”の形成機序を解明するために, 尿の細胞診検査後, 2ヵ月以内に組織学的検査を受けた膀胱良性疾患群21例, 膀胱移行上皮癌69例の合計90例について細胞学的, 病理組織学的, 免疫組織化学的検討を行った. 移行上皮癌では組織標本に渦状の構造が14.5%にみられたが, GO, G1, G2, G3と移行上皮癌の異型度が高くなるにつれて, 0%, 6.3%, 11.1%, 29.4%と渦状構造の出現率も高くなることが判明し, 尿中細胞診上のPCとほぼ同様の傾向を示した. 移行上皮癌の組織学上の渦状構造の出現と尿細胞診上のPC検出についてはX2検定では特別な関連はみられなかった. Ki 67免疫染色で17例から得られた64個のPCの中心細胞と外側細胞の増殖の程度を検討してみると, 陽性細胞は内側細胞に比して外側細胞の方が統計学的に有意に多いという結果となった (X2P値: 0.0005). すなわち, 尿路上皮腫瘍細胞は尿中に剥離したあとも増殖活性がみられ, しかも外側細胞に増殖活性が高いことを示唆された. 今回の検討の結果, PCは組織中で形成されているのではなく, 尿中に剥離したあと, 細胞相互の何らかの増殖活性の差によってもたらされるものではないかと考えられた.