日本臨床細胞学会雑誌
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家族性大腸腺腫症に合併した多中心性甲状腺乳頭癌の若年例
望月 衛永久保 守九里 孝雄吉田 京子蛭田 道子森 菊夫高橋 優
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1996 年 35 巻 2 号 p. 161-167

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抄録

家族性大腸腺腫症 (familial adenomatous polyposis, 以下FAP) に合併した多中心性甲状腺乳頭癌の18歳女性例を報告する. 左頸部腫瘤の穿刺吸引細胞診では, 充実性, シート状配列を示す細胞集塊と, 重積性, 乳頭状配列を示す細胞集塊が混在して出現していた. 前者では腫瘍細胞は豊かな細胞質を有し, 核溝は目立たず, 粗大な核クロマチンを有していた. ライトグリーン淡染性の無構造物も観察された. 後者では, 核縁不整と核内細胞質封入体を多数認めた. 甲状腺乳頭癌と診断し, 甲状腺左葉切除術を施した. 切除標本の病理組織学的検索では, 乳頭癌の多中心性発生が認められた. 家族歴調査および術後の大腸内視鏡検査でFAPと診断し, 全結腸直腸切除術を施した. 甲状腺左葉切除術の約14ヵ月後, 右葉にも乳頭癌を認め, 残存甲状腺の切除術を行った. 甲状腺検査は, FAP患者の経過観察や, FAPの家系にある者のスクリーニングに不可欠と考える. さらに, 甲状腺乳頭癌の若年例に遭遇した場合, 家族歴を詳細に調べるとともに, 念のためFAPの有無を精査すべきであると考えた.

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