前立腺癌は今まで, 初期症状として骨転移, 尿路障害等を呈するといわれてきたが, 他の臓器転移なしに系統的なリンパ節腫脹のみで発見されることは比較的稀である. われわれは今回, リンパ節腫脹のみで発見され, 非特異的な進展形式をとった低分化型前立腺癌を呈示する. 症例は57歳男性. 家族歴, 既往歴に特記すべき事項なし. 現病歴では, 昭和62年9月より左側腹部痛が出現し, イレウス症状を呈したため, 病院受診に至った. 受診時, Computerized tomography (CT) とUltrasonography (US) で左腎臓の水腎症様拡張と骨盤腔から横隔膜の位置までの傍大動脈リンパ節が系統的に腫大しているのが認められた. 他の臓器に異常は認められなかった. 尿検査, 血清学検査等でも腫瘍マーカーを含め, 異常は認められなかった. 最初に, 経直腸的に粘膜下生検および, 腫大した鼠径部リンパ節と思われる組織を採取して検索したところ, 未分化な充実性の腫瘍で確定診断は困難であった。そのため再度, 鼠径部の組織から捺印細胞標本, 電顕用標本, 免疫染色用標本を採取した. これらの検索から前立腺癌が推定されたので, 経尿道的に前立腺生検を施行し, 低分化型前立腺癌と確定診断するに至った.