Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第126巻第4号

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特集 アタッチメントとトラウマの混在病理にどう介入するか?
発達性トラウマ障害の背景と理解
小平 雅基
総合母子保健センター愛育クリニック小児精神保健科
精神神経学雑誌 126: 272-279, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-044

 逆境的な体験(慢性反復的なトラウマ体験であり,中核的には被虐待体験となる)による子どもへの精神的な影響を包括的に捉えることをめざして,発達性トラウマ障害(developmental trauma disorder)という診断概念がvan der Kolk, B.A.らから提案された.症状構成としては,トラウマ関連の症状のほかにも,感情/身体/認知などの調節障害や,注意および行動の調節障害,自己帰属感や社会への期待感の変化など,幅広い機能不全からなっている.アタッチメントとトラウマ,それぞれに関連した病理として位置づけられており,複雑性心的外傷後ストレス障害の小児期版として理解することができる.アタッチメントの定義としては「危機的な状況に際して,あるいは潜在的な危機に備えて,特定の対象との近接を求め,またこれを維持しようとする個体の傾性」とされ,危機的な状況でストレスが高まった際に,アタッチメント対象へ近接することで,崩れた感情をなだめ回復するシステムをわれわれが有していることを意味している.トラウマ的な体験をした際にも,安定したアタッチメントスタイルが形成されていると,身体的にも,感情的にも,調整緩衝的に作用するため,トラウマからの回復も援助されることとなる.そして安定したアタッチメントスタイルの形成不全を伴う心的外傷後ストレス障害を複雑性心的外傷後ストレス障害と理解することができる.昨今,児童虐待件数が急増しているなか,発達性トラウマ障害で定義されたような臨床像を示す子どもが,児童精神科医療機関に相談される機会が増えてきている.しかし,そのような子ども特有の症状をふまえた診断基準はいまだ存在しておらず,結果としてさまざまな診断カテゴリーに分散されているのが現状である.そのような観点から発達性トラウマ障害という臨床概念をあらためて吟味・検討していくことは,有意義と考えられる.

索引用語:発達性トラウマ障害, 心的外傷後ストレス障害, アタッチメント, 小児期の逆境体験>
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