保険学雑誌
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【最新海外保険事情】特集
自動運転と対物賠償責任保険
—ドイツ法との比較法的検討—
金岡 京子
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2020 年 2020 巻 651 号 p. 651_25-651_50

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抄録

本稿は,保安基準を満たす自動運行装置を用いた自動運転中の事故において,対物賠償責任の前提となる運転者の過失について,①走行環境条件に反する使用をした場合,②不適切に自動運行装置に介入し,運転者自ら運転操作した場合,③自動運行装置からの運転操作引継ぎ要求に応じなかった場合,④運転操作引継ぎの必要性を認識しなかった場合に類型化し,ドイツ法との比較法的検討を行った。自動運行装置の製造者の説明書等による明確で理解しやすい説明があり,運転者が走行環境条件および自動運行装置の使用方法を習熟しており,十分な時間的余裕をもった運転操作引継ぎ警報があり,警報に従って運転者が運転操作をしない場合に車両が安全に停車し,保安基準を満たすドライバーモニタリングが行われている限り,運転者の過失による事故発生の可能性は低くなるものと思われる。しかし④の類型においては,ドイツと同様に,自動運行装置からの警報がなくても,明白な事情により,走行環境条件を満たさなくなったことを直ちに認識すべきであったが,スマートフォンの画面を注視していた等運転操作以外の活動に没頭していたため,その認識ができなかった場合も考えられる。上記明白な事情は,自動運転中に運転操作以外の活動が認められている状況下においては,自動運行装置からの警報がなくとも,一般の平均的運転者であれば当然認識できる程度の明白な事情であって,その認識の有無は,自動運行装置を使用しない通常の運転中に求められる運転者の注意義務より低いレベルの注意義務を基準とすべきであると考えられる。また,③および④においては,自動運行装置の警報が発せられたとき,または走行環境条件を満たさなくなったとき,運転者が直ちにそのことを認識し,確実に運転操作をしなかった場合に,ドイツと同様に,運転者が遅滞なく運転操作を引き継がなかったことに過失があったと考えられる。本稿の検討内容は,自動運転中の対物事故対応に応用できるものと考える。

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