2017 年 123 巻 6 号 p. 355-364
近年,伊豆弧や東北本州弧の詳細な地震波速度構造が示され,岩石の弾性波速度と地震波速度の比較によって,島弧下部地殻の構成岩石の推定が行われてきた.特にP波速度(Vp)とS波速度(Vs)の同時測定により,Vp/Vsトモグラフィーとの対比が可能となり,構成岩石をより詳しく推定することが可能となった.例えば,東北本州弧の下部地殻は,輝石角閃石はんれい岩(日本海東縁),角閃石はんれい岩(島弧主要部),含石英岩石(北上帯)に区分される.最上部マントルに関しても,地震波速度はかんらん岩の弾性波速度と一致するとは限らない.北上帯の最上部マントルはオルソパイロキシナイトから構成されると推定され,白亜紀のスラブ融解由来のメルトとマントルかんらん岩が反応した痕跡であると考えられる.島弧の地殻深部と最上部マントルの構成岩石は以前考えられていたよりも不均質かつ異質であることが明らかにされつつある.