雪氷
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北極圏の氷河および氷床の融解を加速させる バイオアルベド効果とそのモデル化研究
大沼 友貴彦 竹内 望
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ジャーナル オープンアクセス

2021 年 83 巻 1 号 p. 51-66

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抄録

北極圏の氷河や氷床の急激な融解の要因として,気温上昇だけでなく雪氷面のアルベドの低下が指摘されている.このアルベド低下の主要因は吸光性不純物で,大気由来の鉱物ダストや黒色炭素に加えて,寒冷環境で繁殖する微生物とその生物活動に由来する有機物の存在も近年明らかになってきた.この微生物過程によるアルベド低下効果はバイオアルベド効果と呼ばれ,世界各地の氷河や積雪で観測されている.微生物は雪氷上で光合成により増殖するため,その効果は大気から沈着する他の不純物とは異なる時空間的動態を示す.また,バイオアルベド効果は,微生物の細胞中の色素や有機物の吸光特性に依存し,他の不純物にはない特有の反射スペクトルを示す.現在,同効果の定量的評価および北極圏全域に広げた影響を評価するため,その雪氷アルベド物理モデルへの導入が進んでいる.さらに,雪氷上の微生物の繁殖モデルも提案され,任意の気候条件に対してバイオアルベド効果を推定する実現可能性も高まってきた.本稿では,このバイオアルベド効果の仕組みとそれに関わる近年の観測およびモデル研究について解説し,北極圏氷河の暗色化現象の理解,将来予測のための課題を述べる.

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© 2021 公益社団法人 日本雪氷学会
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