2022 年 20 巻 1 号 p. 21-41
検索の意図的な制止は,記憶を意図的に思い出さないようにする内的過程を指し,Think/No-Think(TNT)パラダイムによって検討されてきた.本論文ではTNTパラダイムの実験手続きの説明に始まり,TNT研究によって明らかにされた検索の意図的な制止の効果,メカニズム,そして調整要因を網羅的に概観した.また,思考抑制との相違点をもとに,検索の意図的な制止が忘却を引き起こす要因についても論じた.検索の意図的な制止は,対象の記憶の忘却を引き起こすだけでなく,記憶のかかわるさまざまな認知プロセス,さらには感情反応にも影響を及ぼす.その背後にある応答的な制御のメカニズムは運動や感情の制御と共通しており,領域普遍性を有する.検索の意図的な制止の制御メカニズムに関する大きな進展の一方で,忘却のメカニズムについては未解明な部分が多いことも明らかとなった.検索制止を事後効果も含めて包括的に理解することは,制御メカニズムの領域普遍性を踏まえると,運動や感情制御がもたらす効果の解明にも寄与し,ひいては認知的制御の統一的な理解に資するに違いない.