主催: 日本臨床薬理学会
【目的】
心不全患者数の増加が大きな問題になっている。心不全が発症する根本的な原因は、心筋細胞が生直後に増殖能を失うため、成人の心臓の再生能力が低いことにある。従って、心筋細胞の増殖を誘導することは、新たな心不全治療戦略となり得るため、本研究では、生直後の心筋細胞の増殖制御機構の解明を試みた。近年、哺乳類の心筋細胞は増殖に先立ち脱分化することから、脱分化が増殖に必須であると考えられるようになっている。脱分化した心筋細胞では、Runx1が発現上昇することが報告されているが、Runx1の心筋細胞増殖における役割は不明な点が多いのが現状である。本研究では、心筋細胞におけるRunx1の生物学的意義を明らかにすることを目的とし検討を行った。
【方法】
実験には、新生仔ラット心筋細胞(NRCM)を用いた。遺伝子のノックダウンにはsiRNAを用い、NRCM播種24時間後にsiRNAを導入し、導入の48時間後に解析を行った。遺伝子の過剰発現にはアデノウイルスベクターを用い、細胞播種時の感染から72時間後に解析を行った。増殖に与える影響の評価には抗Ki-67抗体を用いた蛍光免疫染色を用いた。また、Runx1過剰発現NRCMの RNA-seq解析により網羅的に遺伝子発現解析を行い、Runx1が心筋細胞増殖に影響を及ぼすメカニズムを探索した。
【結果・考察】
NRCMをウシ胎児血清(FBS)存在下で培養すると増殖活性が上昇する。そこで、FBS存在下で培養したNRCMでRunx1の発現を評価したところ、Runx1の有意な発現上昇が見られた。次に、Runx1をノックダウンまたは過剰発現し、Runx1増殖への関与を検討した。Runx1をノックダウンすると増殖中のNRCMの割合が有意に減少し、Runx1を過剰発現させるとその割合が有意に上昇したことから、Runx1が心筋細胞の増殖に対して必要十分であることが示唆された。最後に、増殖に関与するメカニズムを探索するためRNA-seqを行った。その結果、幼若な心筋細胞で発現する遺伝子の発現量がRunx1過剰発現によって上昇しており、Runx1が心筋細胞をより幼若な状態に変化させることで心筋細胞の増殖を促進する可能性が示唆された。
【結論】
Runx1はNRCMの増殖に必要十分であることが示され、Runx1による増殖誘導は心筋細胞の幼若化によるものである可能性が示された。