日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_1-C-O07-4
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一般演題(口演)
P-gp基質/阻害薬の消化管吸収動態を考慮した薬物間相互作用リスク解析
*直井 麻里奈白坂 善之田村 諒佐藤 正延玉井 郁巳
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抄録

【目的】医薬品開発では、消化管における薬物間相互作用 (DDI)のリスク評価を、通常、最大投与量を250 mLで除した理論的最大消化管内濃度([I2])を用いて行う。しかし、in vivoにおける消化管内濃度は、部位および時間依存的に変化するため、本リスク評価法は必ずしも妥当とは言い難い。本研究では、P-glycoprotein (P-gp)基質/阻害薬の消化管吸収動態を考慮した高精度な消化管DDI評価法の提唱を目指し、消化管DDIに対する基質/阻害薬の吸収動態の影響に関する定量的解析を試みた。

【方法】P-gpのモデル基質薬として高膜透過性のtalinololを、モデル阻害薬として高膜透過性のquinidineと低膜透過性のerythromycinを用い、ラットin vivo経口投与・静脈内投与実験およびin situ closed-loop実験により、消化管DDIを評価した。Caco-2細胞を用いたin vitro膜透過試験および取り込み試験により、各薬物の膜透過性および細胞内非結合形分率を算出した。PBPK absorptionモデル解析はNappプログラムを用いて行った。また、既存のデータベースを活用しDDIパラメータのトレンド分析を行った。

【結果・考察】ラットin vivo経口投与実験では、erythromycin併用時のみ、talinololの血漿中濃度が有意に増加した。静脈内投与実験では、いずれの薬物もtalinololの血漿中濃度に影響を及ぼさなかったことから、本相互作用が消化管P-gp阻害に起因することが示唆された。一方、ラット消化管を用いたin situ実験では、erythromycinおよびquinidineはいずれもtalinololの吸収性を増大させた。したがって、in vivoにおける消化管DDIには、薬物の膜透過性に起因した消化管内動態が関与する可能性が推察された。そこで次に、in vitroデータに基づいて、PBPK absorptionモデルを用いたDDI解析を行ったところ、quinidineはその高膜透過性に起因した速やかな吸収が観察され、P-gp阻害が消化管上部に限定されることが示唆された。一方、低膜透過性のerythromycinは、消化管内に長く残留し、消化管全体でのP-gp阻害が推察された。データベースを用いたDDIパラメータのトレンド分析により、現行のDDIリスク評価で偽陽性を示したP-gp阻害剤の多くが高膜透過性薬物である傾向が示された。

【結論】薬物の膜透過性によって、消化管DDIリスクが変動する可能性が示された。適切なDDIリスク評価を行う上で、各薬物の吸収特性に基づいた消化管内挙動を精緻に解析することが必要と考えられた。

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