日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_1-C-O07-1
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一般演題(口演)
RNA編集酵素による「環状RNA-microRNA経路」を介したヒト腎尿細管上皮細胞における薬物排泄トランスポーターMRP4発現制御機構の解析
*小俣 裕司大川 ませ梨原口 真依鶴田 朗人松永 直哉小柳 悟大戸 茂弘
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抄録

【目的】ABCC4遺伝子にコードされるMultidrug resistance protein 4 (MRP4) はABCトランスポーターの1つであり、多くの薬物の腎排泄に関与している。我々はadenosineからinosineへの塩基変換である「RNA編集」を触媒するadenosine deaminase acting on RNA 1 (ADAR1) が腎臓でのトランスポーター発現制御を担うことを見出しているが1、ADAR1とMRP4との機能的関連性は未解明であった。本研究では、1本鎖のリング状non-coding RNAである「環状RNA」が、microRNAを吸着する「スポンジ」として機能する点に着目し、ADAR1によるMRP4の発現制御機構について解析を行った。

【方法】培養ヒト腎近位尿細管上皮細胞 (RPTECs) にshRNAを発現するレンチウイルスを感染させてADAR1-knockdown (KD) RPTECsを作製した。環状RNAの測定は、環状RNAを生成するback-splicing特異的な配列を増幅するdivergent primer (外向きprimer) でのRT-PCRで実施した。pcDNA3.1にHIPK3遺伝子のexon2を前後のintronを含めて挿入して、環状RNA circHIPK3発現ベクターを作製した。

【結果・考察】ADAR1-KD RPTECsではMRP4タンパク質の発現量が増加し、その増加にはABCC4 mRNAの3′非翻訳領域 (3′UTR) に結合するmicroRNAの機能低下が関与することが示唆された。マイクロアレイとmicroRNA標的予測ツールを用いた解析により、ADAR1によるMRP4の発現制御を仲介するmicroRNAとしてmiR-381-3pが抽出された。環状RNAはback-splicingと呼ばれる特殊なsplicingで生成され、microRNAを吸着することでその機能を抑制するが、ADAR1によるRNA編集が環状RNAの1つであるcircHIPK3生成のback-splicingを抑制することが明らかになった。circHIPK3はmiR-381-3p結合配列を有しており、ADAR1によるcircHIPK3の生成の抑制は、miR-381-3pの機能を向上させ、MRP4タンパクの翻訳抑制に繋がっていることが示唆された。

【結論】RNA編集酵素ADAR1による「環状RNA-microRNA経路」制御が、ヒト腎細胞でのMRP4発現制御に関与することが明らかになった2。本研究を皮切りに、薬物動態関連因子の新規発現制御機構としての環状RNAの役割の解明が進むことが期待される。

【参考文献】1. Omata Y et al., J Biol Chem 296: 100601, 2021; 2. Omata Y et al., J Biol Chem 298: 102184, 2022.

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© 2023 日本臨床薬理学会
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