地学雑誌
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表紙
Grand Canyon東部,Desert View展望台の夕景(米国アリゾナ州)
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2016 年 125 巻 2 号 p. Cover02_01-Cover02_02

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抄録

 かつて超大陸パンゲア西部の陸棚浅海や砂丘で堆積した古生代の地層がほぼ水平なまま隆起し,標高2,000 mの台地表面を飾っていることは驚きだ.隆起以前から存在したコロラド川は,大地の上昇に抗って,もともとの川筋を残したまま穿入蛇行を続けて,現在もV字谷を削っている.北米大陸直下にあるマントル上部の上昇流が急速隆起の原動力だが,この隆起が止まれば大峡谷の崖はすぐに浸食されはじめ,ただのつまらない緩斜面に急速に変わってしまうだろう.単独の急崖で多様な地質時代の地層を一目で見ることができるのは大きな魅力であるが,あの急な崖をつくる地層そのものが特異なわけでない.同じ地層がほとんど変形もせず延々と周辺地域の地下につながっているからである.
 日本人がグランドキャニオンを訪れる場合,米国西海岸南部からインターステーツ40号線(旧ルート66号線)を東に進み,途中で北に折れて,大峡谷の南側に出るコースが定番であろう.Mather Point展望台やBright Angel Trailheadに自動車横づけで,台地上からのあの絶景を眺めることができる.しかし,あえて崖沿いにさらに東に小一時間進むと,大峡谷東部のコロラド川上流部では谷幅が広がり,台地の上からも蛇行する川の流れが見える.夕闇迫る頃のDesert View展望台から,ちょっと趣の異なる光景を楽しむことができた.さらに,よく目をこらすと,水平な古生層最下部のカンブリア系と,その下の先カンブリア時代の岩石との間の明瞭な不整合(the Great Unconformityと呼ばれる)を目視できる.
(写真と説明:磯﨑行雄)

© 2016 公益社団法人 東京地学協会
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