日本心理学会大会発表論文集
Online ISSN : 2433-7609
日本心理学会第85回大会
セッションID: ITL-003
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国際賞受賞講演
ストレス理論の展開—健康心理学の視点から—
野口 京子鈴木 華子
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抄録

ストレスは人生の「スパイス」であるというSelye, H. の名言があり,林峻一郎はストレスを生体と環境との間に起こる「さざ波」であると表現した。いずれも,ストレスは複雑な現代社会にあって,人間が生存しているがゆえに出会うものの一部であり,生きている証しでもあると捉えている。WHOが健康を「心理的・身体的・社会的な良好状態」と定義しているのは既に周知のことである。その健康の達成に心理学から貢献する健康心理学が1980年代に台頭した背景の一つに,急速に変化する社会から引き起こされたストレスのネガティブな影響が挙げられる。本講演では,現代文明に必然的なストレス理論の誕生から最新の研究まで,時代背景と理論の発展の経緯を辿る。そして,研究・臨床両面から,ストレス理論が,そのメカニズムすなわち生命と環境の対話の中で,他の主要な理論・概念と密接にかかわり支えあいながら,健康に資する役割を広げてきたことを再確認する。ストレス対処理論は,Lazarus, R. S. の「8つのストレス対処法」を土台として発展した。そこに交差してくる,Bandura, A. の「自己効力」,Ellis, A. の「理性感情行動療法(REBT)」,Goulding, M. & B. の交流分析の「再決断」,Schultz, J. H. の「自律訓練法」等の理論に触れ,「健康心理カウンセリング」が生まれた経緯を紹介する。日本の健康心理学の発展に貢献した海外の心理学者との交流では,彼らがそれぞれ自分の研究の主要部分にストレスのテーマを関連させ,理論と実践の両輪に力を注いでいたことに気づかされた。どのような人がどのように,ストレスの本質を理解し生きる力に変えていくのだろうか。それを現実の場で用いている究極の実践者・体現者の1例として宇宙飛行士を挙げ,その資質を健康心理学の視点から考察する。今後,さらに変化する環境で生活していく人々が,環境とのハーモニーを作り出し幸せに過ごしていくために,ストレス理論は新たな要素を取り入れていくはずである。予想をしてみたい。

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