印度學佛教學研究
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タントラ文献におけるマントラの暗号化とその法則――ヒンドゥー教版Bhūtaḍāmaratantraの例を中心として――
藤井 明
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2020 年 68 巻 3 号 p. 1243-1247

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抄録

タントラ文献がその秘匿性を保つ方法としてはsandhyā-bhāṣā(あるいはsandhā-bhāṣā)という隠語の機能を備えた密意語(あるいは,たそがれの/含みをもった言葉)という術語が挙げられる.またタントラ仏教文献で,ある単語が特殊な意味合いで用いられる文脈が存在し,暗号の様に用いられる語が見受けられる.また,マントラの暗号化とその解読の法則を含むmantroddhāraが挙げられる.これは特定の語や図形を用いてマントラを暗号化,観想する法則も含み,類似の方法はヒンドゥータントラ文献に多く認められる.本論文では,Hevajratantra(HT)内の暗号化の法則とヒンドゥー教版Bhūtaḍāmaratantra(HBT)のマントラの暗号化の法則を提示し,HBTの暗号化の特徴を明らかにすることを目的とする.仏教版Bhūtaḍāmaratantra(BBT)では,HBTに見られるようなマントラの暗号化はなされていない.その為,BBT内のマントラとHBTのマントラを対照することで,HBTが如何にBBTのマントラを取り入れているかも考察した.考察の結果,HBT中ではHTに見られるprathamasya prathamaの様な方法は用いられず,HBTの音と単語との対応はHTの単語の対応とは別の伝統に属し,同様にVaiṣṇavaとも異なる伝統に属するものであることが確認された.また,HBTがBBTのマントラをも踏襲していることが明らかとなった.しかし,仏教に特有の術語を用いることを避け,改変した上で暗号化を施したと考えられる.

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© 2020 日本印度学仏教学会
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