地理学評論 Ser. A
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栃木県におけるイチゴの新品種「女峰」の普及過程
林秀 司
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1994 年 67 巻 9 号 p. 619-637

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抄録

本研究は,農業の技術革新の地理的普及を解明するため,イチゴの新品種である「女峰」を事例として,その普及過程を地域レベルおよび集落レベルにおいて明らかにしたものである.
女峰は栃木県農業試験:場で育成された促成栽培用の品種である.女峰は1984年から栃木県内に本格的に普及し始め,6年間でほぼ完全に従来の品種と交替した.こうした急速な普及の要因には,女峰が優れた品種特性を有し,販売価格の点で有利であったこと,行政や農協関係者が現地試験や講習会の開催などによって積極的な普及促進を図ったことがあげられる.全国的にみても,関東や東海地方を中心としたイチゴの主要産地はいち早く対応し,女峰はこれらの地域に急速に普及した.
集落レベルでは,革新者の性格を有する精農家が試験栽培に取り組んだことがイチゴ栽培地域への女峰の導入の契機となった.次いで,彼らの試作の結果を受けて導入を試みる農家が続いた.早い時期に女峰を導入した農家はイチゴ栽培の経験が豊富で,専業的な農家であった.革新者の存否と意思決定要因として作用した個人間の情報伝達は,集落による導入・採用の時期に差異を生みだした.しかし,明確な近接効果を見出すことはできなかった.

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