Trends in Glycoscience and Glycotechnology
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ミニレビュー(日本語)
クリプトコッカス症原因菌の糖脂質代謝の生理学的意義
渡辺 昂石橋 洋平伊東 信
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2015 年 27 巻 157 号 p. J21-J31

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抄録

Cryptococcus neoformansは、免疫不全患者を中心に発症するクリプトコッカス症の原因菌である。私達は、C. neoformansにエンドグリコセラミダーゼ(EGCase)の2つのホモログ(Endoglycoceramidase related Protein 1, 2; EGCrP1, 2) が存在することを見出した。この2つのホモログは、オリゴ糖鎖とセラミド間のβグリコシド結合を加水分解するEGCaseとは全く異なる基質特異性を示した。つまり、EGCrP1はグルコシルセラミド(GlcCer)に特異的な中性グルコセレブロシダーゼであり、EGCrP2はGlcCerのみならず種々のβ-グルコシドを加水分解するアグリコン特異性の広い酸性β-グルコシダーゼであった。これらの酵素遺伝子が欠損したC. neoformans変異株を作製、解析した結果、EGCrP1欠損株ではセラミドの合成過程で生成される未成熟型セラミドにグルコースが結合した、野生株にはない未成熟型GlcCerが蓄積した。一方、EGCrP2欠損株ではエルゴステリルβ-グルコシドが蓄積した。これらの結果は、EGCrP1はGlcCer合成系と共役してGlcCerの品質管理に、EGCrP2はエルゴステリルβ-グルコシド(EG)の分解に関与していることを示している。生理学的に重要なことは、EGCrP1欠損株では莢膜形成不全が、EGCrP2欠損株では液胞の肥大化と細胞分裂不全が観察されたことである。今回明らかにされたEGCrP1, 2が駆動する真菌特異的な糖脂質代謝経路は、新しい作用機序を備える抗深在性真菌薬の開発標的として有望と考えられる。

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© 2015 FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
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