日本東洋医学雑誌
Online ISSN : 1882-756X
Print ISSN : 0287-4857
ISSN-L : 0287-4857
八味地黄丸の意欲賦活作用と抗焦燥作用について
相反する向精神作用の五行論による把握
尾崎 哲下村 泰樹
著者情報
ジャーナル フリー

1993 年 43 巻 3 号 p. 429-437

詳細
抄録

漢方方剤は, 身体症状に用いられることが多いが, 精神症状に対しても有効な作用を併せ持つ。我々は漢方方剤に関して〈気の異常〉への作用を検討し, (1) 気の上衝 (2) 気うつ, に関して有用な種々の漢方方剤について報告したが, (3) 気虚には無効であった。このため, 腎気虚に適応される八味地黄丸を選択し向精神作用を検討した。
意欲低下を標的症状とした15症例に対し, 八味地黄丸 (7.59/day) を追加投与した。投与2週後の意欲低下, 焦燥感への有効率は73.3%, 86.7%と高値を示した。しかし, 不安感, 抑うつ気分には余り有効でなかった。効果発現は1~2週後であった。その他の症状では不眠の改善傾向を認めた。が, 食欲低下には無効であった。副作用は軟便を1症例で認めたが減薬で改善した。
虚実の心身判定スケール (尾崎, 下村) による本方剤の有効領域は, 虚証, 中間証の境界領域と考えられた。そして本方剤が意欲低下と焦燥感という相反する症状に有効であることを解釈するためには, 五行論による仮説が有用であると思われた。

著者関連情報
© 社団法人 日本東洋医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top