狂犬病は予防できるが,治癒させられない代表的ウイルス性人獣共通感染症である。日本では1957年以降ヒトの狂犬病も動物の狂犬病も発生の報告はないが,狂犬病が常在する国々はいまなお多数ある。したがって,狂犬病が日本に侵入する可能性は常に考えておく必要がある。近年日本から海外に旅行ないし出張する人々は年間1600万人を超えた。こうした状況では狂犬病常在地への旅行者がイヌやネコなどに咬まれて狂犬病ウイルスに感染し,帰国後に狂犬病を発病する輸入狂犬病が発生する可能性は高い。日本では狂犬病ワクチンを常備する医療機関が少なく,狂犬病免疫グロブリンは製造も輸入もされていないため,海外での動物咬傷被害者に狂犬病曝露後発病予防を迅速に実施できる状況にない。日本での輸入狂犬病発生を防ぐためには,医療機関における狂犬病への備えが必須である。