日本鳥学会誌
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原著論文
小笠原諸島聟島列島におけるノヤギ排除後の海鳥営巣数の急激な増加
鈴木 創堀越 和夫佐々木 哲朗川上 和人
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2019 年 68 巻 2 号 p. 273-287

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抄録

小笠原諸島聟島列島は1881年から1944年まで人が住み,放牧や農地などの開発が行われた.聟島,媒島,嫁島は開発以前には森林が広く存在したが,野生化したノヤギが増加し,食害と踏圧等により森林の草地化や裸地化,土壌流失が著しく進んだ.これら3島では1999–2003年にかけノヤギの根絶が達成された.また,3島には外来種のクマネズミも生息していたが,聟島でのみ2010年に駆除が実施された.本研究ではノヤギ排除に伴う海鳥繁殖状況の変化を評価するため,2001–2017年に3–5年間隔で,海鳥類4種の営巣分布および営巣数の変化を記録した.その結果,ノヤギの排除により地上で繁殖する大型のカツオドリSula leucogasterとクロアシアホウドリPhoebastria nigripesは,初期に数十巣以上の繁殖集団が残存していた島では営巣数が速やかに増加したが,営巣数が少ない島では増加は限定的だった.中型で地中営巣性のオナガミズナギドリPuffinus pacificuは初期の営巣数が少ない島も含め全島で大幅に増加した.小型で地中営巣性のアナドリBulweria bulweriiは当初は全島で営巣がなかったが,聟島と媒島では新規営巣が確認された.但し,営巣数の増加は僅かで,クマネズミの捕食圧が原因の一つと考えられた.ノヤギの排除により海鳥の営巣数増加と繁殖地拡大が短期間で進んだことから,環境改変を介した間接的な影響より,繁殖地での徘徊による直接的な撹乱影響が大きかったと考えられる.またノヤギ排除後の海鳥の反応には種間差があることも明らかになった.大幅に営巣数が増加した3種は,いずれも草地や岩地など開放的な環境を好んで営巣する種である.聟島列島には人為的撹乱以前には森林繁殖性の海鳥が生息していたと推測され,開放地を好む海鳥のみが増加している現状は,偏った海鳥相を成立させていると言える.聟島列島の海鳥相を本来の状況に近づけるためには,森林の回復やネズミ類の排除を進め,森林繁殖性の海鳥の定着を促すことが望ましい.

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© 2019 日本鳥学会
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