応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
短報
長野県上田市の塩田平ため池群における底泥の肥料成分
高橋 一秋
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 25 巻 1 号 p. 31-46

詳細
抄録

本研究では,ため池底泥の栄養塩の生産と蓄積に影響を与えうる環境要因として,ため池へ水が運び込まれる水系の違い,ため池の土手の内部に分布する池岸植生の面積,ため池の水面を被う水面植生の面積,池干しの面積に着目し,ため池から採取した底泥の水素イオン濃度指数(pH)および含有する肥料成分(硝酸態窒素,水溶性リン酸,水溶性カリウム)の濃度を簡易土壌診断キットを用いて測定した.また,ため池底泥の肥料としての有用性について考察した.調査は,塩田平のため池群(長野県上田市)の 10 か所の池で行った.ため池底泥に含有する水溶性リン酸と水溶性カリウムの濃度に影響を与えていた環境要因は植生面積であった.水溶性リン酸の濃度については池岸植生面積率が高いほど,水溶性カリウムの濃度については池岸植生面積率が低いほど高い値を示した.また,硝酸態窒素の濃度については,本研究で着目した 4 つの環境要因の影響を受けていなかった.これらの結果から,ため池を取り巻く土手の内部に分布する池岸植生は,水溶性リン酸の供給源として,水溶性カリウムは吸収源として機能していたこと,硝酸態窒素については供給源や吸収源として機能していなかったことが示唆された.ただし,簡易土壌診断キットの測定値を従来法と比較した場合の相対誤差が水溶性リン酸と水溶性カリウムでは高かったため,やや信頼性に欠ける結果となった.また,ため池底泥の肥料成分濃度はバラつきが大きいものの,農作物の栽培に適しているとされる 3 mg/L を大きく上回っていた池が多かったことから,肥料として十分な濃度を満たしていた.一方で,水素イオン濃度指数(pH)は,全てのため池で農作物の栽培に適しているとされる 6.0~6.5 をわずかに下回っており,肥料としてやや不十分な特性を有していた.したがって,肥料成分の濃度や成分比を調整することによって,ため池底泥を肥料として底泥を利用できるだろう.

著者関連情報
© 2022 応用生態工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top