応用生態工学
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海岸生態系研究におけるアマチュアリズムと保全活動
希少貝類を例として
山下 博由
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2000 年 3 巻 1 号 p. 45-63

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抄録

日本の海棲貝類は多くの種が著しい絶滅傾向にある.その大きな特徴は,1)絶滅傾向にある種類数が多い,2)かつての普通種にも絶滅傾向が著しい,3)内湾棲種に絶滅傾向が顕著である,4)砂泥底生活種に絶滅傾向が顕著である,などが挙げられる.433種にのぼる貝類がレッドデータブックや保全の論文に絶滅の恐れのある種として登載されているが,これは日本の海洋生態系全体の危機的状況を強く示唆している.著しい種多種性と多様な生息地において様々な生態を持つ貝類は,海岸生態系の環境評価にとって最高の試料のひとつである.筆者は,アマチュア研究者として干潟・塩性湿地の貝類の保全に関わってきたが,九州における保全活動の具体例を紹介した.特に,開発により失われ続けている塩性湿地・干潟生態系及び自然環境の連続性が維持されている原始的生態系の重要性を強調した.貝類の移植の問題点について述べ,生息地の保護により種・生態系は保全されるべきであると指摘した.現代の地域開発においては,その計画の初期段階において生物多様性保全の視点の導入が不可欠である.また,軟体動物学上及び保全生物学上,重要な地域生態系の目録作成と保護区の策定が必要である.現在,生物多様性保全におけるアマチュア研究者の参加は国際的にも需要が高まっている.また,保全生物学の思想は人類の思想史においても革命的意義を持つものであることについて言及した.

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