薬史学雑誌
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日本薬局方に見られた向精神・神経薬の変遷(その 24)海外の文献に見られた阿魏 Asafetida の成分とその活性効果に関する知見
柳沢 清久
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2020 年 55 巻 2 号 p. 227-235

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抄録

目的:阿魏 Asafetida が掲載された生薬学書には,その成分として,新たに farnesiferol の掲載が見られた.Farnesiferol は sesquiterpen coumarins に属する化合物である.著者は farnesiferol を始めとして,近年,本品から新たに発見された多種類の sesquiterpen coumarin の化学構造,およびその活性効果について,文献調査を行った. 方 法:J-GLOBAL に て,sesquiterpen coumarins の 文 献 情 報 の 検 索 を 行 っ た. そ の 検 索 結 果 か ら 阿魏 Asafetida から単離した sesquiterpen coumarins の文献を抽出した. 結果:1950 年代~近年にかけて,分析化学技術の進歩により,阿魏 Asafetida の樹脂成分について,海外の研究者によって,数多くの sesquiterpen coumarins が単離,同定された.その端緒として,1950 年代後半,Caglioti らによって,farnesiferol A,B,C が単離された.阿魏 Asafetida から新たに発見,単離されたsesquiterpen coumarins の化学構造については,coumarins の umbelliferone 骨格を含んでいること,および炭素数 24(C24)で一貫している.Umbelliferone は炎症抑制作用があることが報告されていることから,阿魏 Asafetida 含有の sesquiterpen coumarins のいくつかにも,炎症抑制作用の可能性が考えられる.同含有成分の ferulic acid には,Aβ神経毒性抑制作用がある.これに特定の coumarins の炎症作用が加われば,アルツハイマー型認知症の認知機能の改善,およびその進行抑制が期待できる.さらに近年の研究で,sesquiterpen coumarins について,抗癌活性,抗ウイルス活性など新たな活性効果が報告された. 結論:この知見により,阿魏 Asafetida の生薬としての価値が再評価されるものと著者は考える.

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