2020 年 50 巻 5 号 p. 179-185
本研究では,腹部手術を受けた患者において,周術期の術後せん妄が血清BDNF およびproBDNF レベルと関連しているか否かを検討した.臨床で応用可能なバイオマーカーは特定されておらず,術後せん妄発症の予測は患者の回復のための看護計画の策定に貢献することができる.腹部手術後の翌朝に対象者31 名から血液サンプルを採取し,ELISA 法によりBDNFおよびproBDNF の血清濃度を測定した.対象者のうち4 名が術後せん妄を発症した. ELISA で血清濃度を測定した結果,BDNF およびproBDNF の濃度には,術後せん妄の有無による統計学的有意差はみられなかった.ただし,術後せん妄を発症した4 症例中2 例のproBDNF 濃度は顕著な高値を示した.さらに,低活動型せん妄の場合,proBDNF 濃度の著しい増加とカリウム値の減少がみられた.
腹部手術を受けた日本人31 名の患者を対象に,手術翌日における血清BDNF およびproBDNF レベルとせん妄の有無との関連を検討した結果,以下の3 点が明らかになった.第一に,せん妄が観察された場合,BDNF 濃度に変化はなかったが,proBDNF 濃度が増加傾向にあった.第二に,術後の血清proBDNF 濃度にはカリウム濃度と負の相関がみられた.第三に,低活動性せん妄は低カリウム血症に関連する傾向がみられた.