日本細菌学雑誌
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R因子の宿主細菌毒力におよぼす影響
赤痢菌由来R因子をもつネズミチフス菌LT-2株のマウスに対する毒力について
渡辺 満
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1976 年 31 巻 3 号 p. 397-407

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抄録

薬剤耐性菌は一般に増殖が遅く, ウィルレンス (毒力) が弱いといわれているが, 近年問題となつているR因子による薬剤耐性菌の毒力に関しては系統的に研究されていない。そこで, 赤痢菌由来の種々なR因子をネズミチフス菌LT-2株にin vitroで伝達し, これらの株のマウスに対する毒力を検討した。
R因子をもつLT-2株の毒力は, R因子をもたない原株の毒力と同程度のものが多かつたが, 中には毒力の低下のみとめられた株もあつた。しかし, 毒力の低下と, R因子の耐性マーカーの種類, 数, fiの有無, 安定性などとは無関係であり, R因子が毒力低下の直接的な要因ではないと考えられた。
そこで, R因子により著しい毒力の低下をきたした株のR因子を, 種々の方法でさらにLT-2原株に再伝達し, これらの菌株について詳細に検討した。その結果は, これらの菌株の毒力はさまざまであつた。
R因子の伝達により毒力の著しい低下をきたした株は, O多糖体側鎖に特異的なバクテリオファージに対する感受性, 野生株および細菌壁多糖体構成成分変異菌株に対する抗血清による凝集反応の結果から細胞壁多糖体構成成分に欠損をもつことが明らかにされた。
以上から, R因子をもつ株の寺一部にみられた毒力の著しい低下の要因は, R因子によるものではなく, R因子を受ける宿主菌側にあると結論された。

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