2008 年 53 巻 3 号 p. 293-300
足圧中心(COP)動揺に基づく健常成人のバランス能力評価法は確立されていない.我々は,足関節の障害の有無によりCOP動揺特性が異なるという報告を参考に,健常成人においてもバランス能力の異なる群ではCOP動揺が異なると仮説を立てた.本研究の目的は,この仮説の検証により,定量的なCOP動揺から,健常成人のバランス能力の評価可能性を検討することであった. 健常成人53名は,閉眼片足立ちの成績により,優群,普通群,および劣群に分けられた.彼らは,120秒間のOLSのCOP動揺測定(3試行)に参加した.各動揺測定において,被験者は30秒間両足で立った後,90秒間片足で立つように指示された.バランス能力の大きく異なる優および劣群間に,片脚立位(OLS)姿勢の動的フェーズ(OLS直後10秒間)ではOLS時のCOP動揺に有意差は認められなかったが,静的フェーズ(OLS最終10秒間)では左右(X)方向COP動揺時系列の標準偏差に有意差が認められた.足底屈筋力は,OLS姿勢の動的フェーズにおけるCOP動揺変数と有意な関係を示した. 要約すると,バランス能力の異なる健常成人において,開眼片足立ち姿勢時における左右方向COP動揺の振幅は異なる.足関節の背屈および底屈筋力は,両足立ちから片足立ち姿勢への移行直後の姿勢の安定に貢献するが,姿勢安定後の平衡維持にはほとんど貢献しない.静的フェーズにおける左右方向動揺振幅の測定により,筋力の貢献度のより低いバランス能力が評価できる可能性がある.