九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: S-05
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セレクション1
日常生活動作時のローテーターカフの筋機能と肩甲上腕関節の安定性の代償戦略
中島 将武川田 将之竹下 康文宮﨑 宣丞福田 将史木山 良二
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抄録

【目的】

腱板損傷などの肩関節疾患では肩甲上腕関節の動的安定性が低下することで,日常生活動作が制限され,生活の質の低下を招く。肩甲上腕関節の動的安定性を直接評価することは困難であるが,Steenbrink(2009)やPataky(2021)は筋骨格モデルを用いて算出した肩甲上腕関節の関節反力ベクトルと,関節窩との位置関係から動的安定性を定量化している。本研究では,棘上筋と棘下筋の最大筋力を低下させた筋骨格モデルを用い,ローテーターカフの筋機能と日常生活動作における肩甲上腕関節の安定性の関係および,代償戦略を検討した。

【方法】

対象は健常成人男性9 名とし,右上肢を分析した。対象動作は肩関節の90°屈曲・外転,対側の肩へのリーチ,頭頂へのリーチの4 動作とした。測定は各条件5 回ずつ行った。対側の肩へのリーチは洗体動作,頭頂へのリーチは洗髪動作を想定した。モーションキャプチャー(Optitrack Flex 13)にて得られた座標データを筋骨格モデルシミュレーションソフト(Anybody 7.3) に入力し,関節反力と筋張力を算出した。棘上筋もしくは棘下筋の最大筋力を50%低下させたモデルを損傷モデルとした。肩甲上腕関節の安定性とローテーターカフの筋張力を分析対象とし,各損傷モデルと非損傷モデルの比較検討を行った。

肩甲上腕関節の安定性は関節窩に対する関節反力ベクトルの相対位置として分析した。肩甲骨の関節窩を円で近似し,近似した関節窩と肩甲上腕関節に作用する関節反力ベクトルとの交点を算出した。その交点と関節窩の中心との距離を円の半径で除し,関節安定性を定量化した。肩甲上腕関節の安定性とローテーターカフの筋張力は肩甲上腕関節の関節反力の合力が最大となったタイミングの値を分析した。なお筋張力は体重で除した値を使用した。各条件5回の平均値を代表値とした。統計学的検定はシャピロ・ウィルク検定の結果に基づいて,シェイファーの方法もしくはウィルコクソン検定のホルム修正にて分析し,有意水準は5%とした。

【結果】

関節反力ベクトルの相対位置は肩関節屈曲で非損傷,棘上筋損傷,棘下筋損傷でそれぞれ0.700 ± 0.123,0.720 ± 0.138,0.746 ± 0.094 と,棘上筋・棘下筋損傷モデルでは非損傷モデルよりも有意に大きい値を示し,安定性が低かった。一方で,肩関節外転,対側の肩へのリーチ,頭頂へのリーチでは,棘下筋損傷モデルが棘上筋・非損傷モデルよりも有意に大きな値を示した。

非損傷モデルにおける肩関節屈曲時の小円筋の筋張力は0.297 ± 0.125N/kg に対し,棘下筋損傷モデルでは0.574 ± 0.148 N/kg と有意に大きな値を示した。同様に肩関節外転,対側の肩へのリーチ,頭頂へのリーチにおいても,棘下筋損傷モデルで有意に大きな値を示した。

【考察とまとめ】

今回の結果より,肩関節屈曲・外転では,棘上筋や棘下筋の機能低下に伴い肩甲上腕関節の安定性が低下することが示された。さらに,棘下筋の機能低下は日常生活動作にも影響を及ぼすことが確認された。また,棘下筋損傷モデルでは,いずれの動作においても非損傷モデルよりも小円筋の筋張力が大きく,肩甲上腕関節の安定性の代償的な戦略に寄与することが示唆された。今後,日常生活動作における腱板機能の低下と,肩甲上腕関節の安定性の代償戦略について詳細に検討を進めていきたい。

【倫理的配慮、説明と同意】

本研究は鹿児島大学桜ヶ丘地区疫学研究等倫理委員会の承認を受け(承認番号:180113 疫- 改2),ヘルシンキ宣言に基づいて研究を行った。対象者には事前に十分説明を行い,同意を得た。

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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