九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: S-14
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セレクション3
遠隔リハビリテーションにより運動耐容能,身体活動量が向上し,長期的な運動習慣の獲得に至ったCOPD 患者の1 例
犬塚 秀太新貝 和也橋本 修平菊地 結貴陶山 和晃吉嶺 裕之高木 理博山下 嘉郎神津 玲
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抄録

【はじめに】

情報通信技術を活用した遠隔リハビリテーションは,慢性閉塞性肺疾患(COPD) 患者の運動機能や健康関連生活の質の改善など,従来のリハビリテーションと同様の効果が期待されている.今回,遠隔リハビリテーションを導入し,運動耐容能および身体活動量の向上を認めるとともに,終了後に運動習慣の定着が得られた症例を経験したので報告する.

【症例】

70 歳代,男性のCOPD(修正MRC 息切れスケールgrade1,GOLD 重症度分類Ⅱ期).2 年前より坂道や階段での息切れを自覚し,ここ数ヶ月で明らかな動作時息切れの増強および体重減少を認めたため当院受診.COPD の診断にて外来リハビリテーションが処方となるも,仕事による時間的な制約のために通院が難しく,遠隔リハビリテーションを実施することとなった.

オンライン診療システム(YaDoc®,インテグリティ・ヘルスケア社)をインストールした端末を医療機関と症例の職場である個人事務所に設置し,就業時間の合間に介入を試みた.生体情報は経皮的動脈血酸素飽和度や血圧等の測定値を口頭で随時確認し,緊急時には主治医への連絡とともに症例の職場に直ちに訪問できる体制を確保した.遠隔リハビリテーションプログラム(呼吸体操,四肢筋力トレーニング,座位エルゴメーター運動,患者教育)は本システムを介して理学療法士の直接的指導のもと,2 回/週を8 週間実施した.開始時および終了時(8 週間後)に各種評価を行い,さらに終了半年後に再評価を実施した.

【経過】

遠隔リハビリテーション開始後より徐々に連続歩行距離が延長し,坂道や階段昇降の呼吸困難の軽減を認めた.また,2 週目からは実施日以外においても自主トレーニングとして上記プログラムを実施するようになり,さらには外出頻度の増加等,明らかな身体活動量の増加を認めた.その結果,開始時/終了時/終了半年後において,体重(kg):46.9/49.0/52.0,ISWD(m):370/420/470,BDI(TDI)(点):7/11(7)/10(7),身体活動量(歩/ 日):1684/5038/4021,SGRQ total(点):28/25/16 と改善を認め,これらは終了半年後時点においても維持できていた.さらに遠隔リハビリテーションに対する患者満足度(CSQ-8) は32 点満点と良好な結果であった.

【結論】

今回,8 週間の遠隔リハビリテーションを実施し,体重の増加,運動耐容能の増大,呼吸困難の軽減,身体活動量の増加および健康関連生活の質の改善を認めた.また,遠隔リハビリテーション終了後も自主運動を継続できており,終了半年後においても身体活動量を維持できていた.遠隔リハビリテーションによって就業の合間を有効に活用し,職場で継続可能な運動メニューを提供できたことが長期的な運動習慣の定着に繋がったと思われる.遠隔リハビリテーションは長期的な運動習慣の定着への動機づけとしても有用で,本症例のように就業等を理由に外来通院が困難な症例に対しても適応可能であり,新たなリハビリテーション提供方法として期待できる.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に則り,人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針を遵守した.COPD 患者に対する遠隔リハビリテーションのプロトコルに関しては,当院倫理委員会の承認を受け(承認番号:2020004),安全性や実現可能性を十分に検証した上で実施した.また,患者の個人情報保護に配慮し,個人が特定されないよう留意するとともに,紙面と口頭で十分な説明を行い,書面で同意を得た.

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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