九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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情報交換ノートの共有により包括的に移動手段を支援した症例について
*松尾 講平*福榮 竜也*松澤 雄太*岩村 秀世*福永 誠司*藤元 勇一郎
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p. 36

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抄録

【はじめに】

脳性麻痺ガイドライン2014より子どもの実生活場面,実活動を想定した反復練習が推奨され(推奨グレードB),諸家の報告ではPTが小児領域のリハビリテーション(以下:小児リハ)に携わり,児の自立支援や家族への支援が行える事が数多く報告されている.昨今の小児リハに携わるPTのテリトリーは,病院だけでなく学校やこども園(以下:園)への活動参加も散見程度報告されている.今回運動能力の遅延を認める児を担当し情報交換ノート(以下:ノート)を導入した.母や他機関と情報共有し支援の領域を拡大した結果,より包括的に関わる事が可能となり母子ともに掲げるDemand達成に寄与した可能性が示唆された事を報告する.

【症例紹介及び介入内容】

症例は5歳の女児.精神運動発達遅滞の診断を受け,生後9カ月時に小児リハを開始した.精密検査の結果,脳室周囲白質軟化症の診断を受ける.1歳3カ月より通園開始し,母より「どのような形でもいいので運動会の徒競走で完走してほしい」とのDemandを聴取する.園より運動会での課題は個別対応可能との返答を受け2歳5カ月時にノートを導入した.導入当初の遠城寺式乳幼児発達検査では移動項目が1歳2カ月であった.ノート使用に際して,母へ小児リハの内容の説明や各施設の活動に対し写真撮影の依頼を行った.また,関連する施設に小児リハや活動内容の記載と閲覧を依頼した.記載例として,児の母親は過介助である事が示唆されていた為,オムツは掴まり立ちで着脱する事を提示し,歩行の介助方法も合わせて記載する事で活動の機会を促した.

【結果】

ノートを活用し活動の向上を図った事で3歳時に押し車での歩行を獲得しDemandを達成した.更に4歳時に手引き歩行,5歳時には独歩を獲得した.遠城寺式乳幼児発達検査の移動運動は3歳時が1歳2カ月,4歳時が1歳4カ月,5歳時が1歳9カ月という結果となった.ノートを活用する事で症例の運動能力を他機関や園と共有し,運動課題の設定を行う事が可能となった.

【考察】

ノート導入により,園内の参加を促進し母子のDemand達成に寄与した可能性がある.要因として他施設との運動課題の共有や目標の統一が図れた事が挙げられる.支援の領域を拡大し,実活動場面での難易度調整が行え,参加を支援できた事が示唆される.現在約3年継続してノートを使用し,児の変化を捉える事がより円滑に行えている.今回はノートというアナログなツールを使用し,症例を取り巻く関係機関が相互に連携を図り,包括的に関わる事でより効果的な支援に繋がる可能性が示唆された.

【まとめ】

情報共有を行う際にノートを使用する事で,母が児の変化を捉える事が容易となり関係機関との連携強化に有効である事が示唆された.今後は就学に向け必要な動作の聴取や継続的なノート使用による支援を行う必要がある.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て(承認番号023),ヘルシンキ宣言に基づき母子ともに書面及び口頭にて説明し同意を得た.開示すべきCOIはない.

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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