日本東洋医学系物理療法学会誌
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Print ISSN : 2187-5316
教育講演
EBMからみた日本におけるマッサージ療法の現状と課題
藤井 亮輔
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2016 年 41 巻 2 号 p. 17-25

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抄録

明治期の富岡兵吉に始まるわが国の病院マッサージ師は一貫して数を増やしたが、マッサージ診療報酬の引き下げ(1981年)で潮目が変わり、直近の統計でピーク期(1990年、7,040人)の4分の1を割り込んだ。EBM隆盛の医療界で医療マッサージの消滅を免れるには関連のエビデンスの構築が欠かせない。本稿は、その研究推進策の基調として昨年度の学術大会で企画された表題の講演に筆を加えたものである。  エビデンスは治療法等の有効性・安全性を示す客観的証拠とされ、その質は臨床研究のデザイン、すなわち、症例報告、ケースシリーズ、症例対照研究、コホート研究、ランダム化比較試験(RCT)、メタアナリシスの順で高くなるとされる。中でも、ランダム化された2群間の効果の有無を統計学的に比較するRCTは有効性の証明に威力を発揮する。  1980年代、優れた研究デザインの開発や医学情報の電子データベース化が進む中、「治療法を選ぶ際の根拠は正しい方法論に基づいた観察や実験に求めるべき」とのSackettらの主張を端緒にEBM(Evidence-based Medicine)の流れが形成され90年代後半以降の潮流となった。その理念は、①患者の問題を見極め、②その解決に必要な情報を探し、③得られた情報を吟味し、④どの情報を選ぶかを患者と共に考え、⑤その結果を評価するという行動指針である。EBMを実践する過程で患者に提供する医学情報は一般にRCTによる論文が推奨される。  この観点から筆者らは、1983年〜2015年までの医中誌Webに掲載されたマッサージ関連論文のレビューを行った結果をWebに公開し、良質の論文をA4紙1枚の構造化抄録(SA)にまとめて提供してきた。しかし、1万件を超える候補書誌のうちSAに採用された論文は30件、そのうち適切にランダム化されていたRCTは12件にとどまった。さらに、これらの論文の掲載誌情報から、当該研究の担い手の過半数が看護の領域に関わる人たちである可能性が高い。  このように、わが国ではマッサージ関連の質の高いエビデンスと研究の担い手が著しく不足している。その裾野を広げるため、斯界には日常臨床における症例観察の構築と臨床研究教育の普及を図るための戦略的な取り組みが求められる。

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© 2016 一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
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