超音波医学
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症例報告
腫瘍径の増大なく内部エコーの変化で診断に至った浸潤性乳癌の1例
道下 由紀子森島 勇小沢 昌慶内田 温大河内 良美石黒 和也菊地 和徳
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2022 年 49 巻 2 号 p. 165-170

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抄録

乳癌の腫瘍倍加時間は平均4ヵ月とされる.今回,2年3ヵ月の経過で明らかな腫瘤径増大はなく,内部エコーの変化が契機となり浸潤性乳癌と診断された1例を経験した.症例は40代女性,乳癌検診で初めて左乳房2時方向に縦横比の大きな分葉形高エコー腫瘤を指摘された.後方エコーは増強,カラードプラで腫瘤辺縁に血流信号を認め,エラストグラフィではTsukuba elasticity score 4,fat lesion ratio 14.58と歪みの低下があり,粘液癌や乳管内乳頭腫(intraductal papilloma:IDP)等の可能性を考えた.穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology:FNAC)で粘液は吸引されず, IDPや線維腺腫(乳腺症型)が推定された.超音波(ultrasonography:US)と細胞診の所見に解離はなく,IDP疑いとして経過観察の方針となった.FNACから7ヵ月後のUSでは大きな変化なく,1年1ヵ月後のUSで腫瘤辺縁の低エコー部は厚みを増した印象があったが腫瘤径の増大はなかった.2年3ヵ月後のUSでは腫瘤辺縁の低エコー部がさらに増し,腫瘤全体の内部エコーレベルも低下した.この時点で針生検を施行し,浸潤性乳管癌の診断を得て初期治療を行った.US画像で変化を呈した部分について病理組織標本を照らし合わせてみると,小腺管や膠原線維の増生が顕著で,内部エコーレベル低下の要因と考えられた.一般に,経過観察中の画像評価では腫瘍増大の有無に焦点が当てられるが,腫瘍倍化時間の長い乳癌も存在する.USで経過を追う際には,内部エコーレベルの変化にも留意する必要がある.

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© 2022 公益社団法人 日本超音波医学会
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