日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
ケモカインと炎症
稲寺 秀邦松島 綱治
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1999 年 36 巻 2 号 p. 82-89

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抄録

ケモカインは白血球遊走・活性化作用を有する塩基性のヘパリン結合性蛋白質の総称である. 多くのケモカインには一次構造上保存されたところに4つのシステインが存在し, 最初の二つのシステイン間のアミノ酸の数により現在4つのサブファミリーに分類されている. なかでもCXCサブファミリーのIL-8とCCサブファミリーのMCAF/MCP-1は, その後のケモカイン研究の発端となった分子であり, ケモカインのプロトタイプと考えられる. これらの分子の生体内での作用については様々な炎症疾患モデルを用いた検討が行われ, その in vivo での重要性が明らかにされており, これらをターゲットとした新しい抗炎症剤の開発が期待されている. 最近のケモカイン研究の新しい展開として, ケモカインが単に炎症・免疫反応に関わるのみならず, 生理周期発情後期の子宮への好中球浸潤の制御や出産時の頸管熟成に関与することが明らかにされている. さらに, リンパ球のホーミングの制御, 造血幹細胞の増殖, 骨髄から末梢血への動員にも関与することが示唆されている. またケモカインレセプターはAIDSの原因ウイルスであるHIVが細胞に侵入する際のコレセプターとして働くことが判明し, ケモカインレセプターを標的としたAIDS治療のための新たな薬剤開発への期待をもたらしている. 今後さらなる研究を通じて, 生物学上様々な現象にケモカインが関与することが明らかになるものと思われる.

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