日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
痴呆性老人は施設ケアでどう変わるか
高齢者アセスメント表 (MDS) による評価
酒井 泰一森 敏金山 政喜赤木 博中島 健二
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1997 年 34 巻 5 号 p. 395-401

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抄録

痴呆性老人の精神・身体状況が入院後どのように変化するかを, 高齢者アセスメント表を用いて検討した. 対象は老人性痴呆疾患治療病棟の痴呆性老人で, 入院時と入院3カ月後にアセスメントを行った. 入院時の評価では, 精神状態に関連した領域では,「痴呆状態・認知障害の検討」,「せん妄の兆候」,「問題行動の兆候」,「アクティビティ (日常生活の活性化) の必要性」および「気分と落ち込みの検討」が高率に選定され, 身体状況に関連した領域では,「視覚機能 (障害) の検討」,「日常生活動作 (ADL) とリハビリテーションの可能性」,「尿失禁および留置カテーテルの検討」,「栄養状態の検討」,「脱水状態・水分補給の検討」および「口腔内ケアの検討」が高率に選定された. 入院3カ月後の評価では,「痴呆状態・認知障害の検討」,「視覚機能 (障害) の検討」にはほとんど変化が見られなかったが,「せん妄の兆候」,「望ましい人間関係 (心理社会的充足) の検討」,「気分と落ち込みの検討」,「アクティビティ (日常生活の活性化) の必要性」,「尿失禁および留置カテーテルの検討」,「栄養状態の検討」,「脱水状態・水分補給の検討」および「口腔内ケアの検討」が著しく改善していた. 改善の見られなかった「痴呆状態・認知障害の検討」は痴呆の中核症状であり, 改善が見られた領域は, 状況因性の情動障害を反映する痴呆の周辺症状と考えられる. また身体症状は, 精神症状の改善にともない減少したことから, 精神症状により二次的に引き起こされた生活状態の乱れを反映していると考えられる. 今回の結果は, 痴呆性老人の施設ケアでは, 痴呆の周辺症状を改善する方向で, 個別性を尊重したケア計画を立てることが重要であることを示唆している.

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