日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
運動麻痺の回復が良好であった大脳皮質を含む広範囲中大脳動脈領域梗塞症例の検討
坂下 泰雄浅山 邦夫杉本 立甫
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1995 年 32 巻 12 号 p. 810-816

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抄録

2年間に当院に入院した脳血管障害例のうち, 発症数日後より運動麻痺が著明に改善した中大脳動脈領域大脳皮質を含む広範囲脳梗塞例について検討した. 症例は67~80歳の男性6例で, 全例塞栓型の発症様式であった. 4例は弛緩性左片麻痺で上肢の麻痺が強く, 2例は右片麻痺であった. 意識レベルは4例で Japan coma scale のIIであったが, 他の2例は清明であった. 4例で心房細動が合併し, 他の2例では心室性あるいは上室性期外収縮を認めた. 心房細動合併例で心房内血栓を証明できた例はなく, 心臓弁膜症を合併した例もなかった. 高血圧が3例, 糖尿病は1例で合併し, コレステロール値は全例で正常であった. 5例が初回発作であった. 発症時の運動麻痺は, いずれの症例も発症後1ないし3日目から麻痺が回復しはじめ, 更に10日間前後で麻痺は著明に改善した. 退院時までには日常生活動作は自立し歩行も安定した. しかし, 左半球損傷例では失語症を, 右半球損傷例では左半側空間無視を残す例があった. 発症後11日目までに行った脳血流スキャンで梗塞巣周辺の前頭葉部分での血流増加を認めた. 治療は脳浮腫対策と輸液で, 血栓溶解剤は使用しなかった. 発症後数時間で急速に神経症状が改善する脳梗塞を spectacular shrinking deficit と呼ぶことがあるが, 本報告例の特徴は, 脳塞栓発症後3日を経過してからも運動麻痺の回復が良好であったことで, 脳梗塞発症時の予後判定に際して注意すべき一群があると思われる.

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