日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年期うつ病に対する全身麻酔下無けいれん電撃療法の有効性と安全性
山口 登青葉 安里常泉 智弘高木 博敬千嶋 達夫酒井 隆根岸 協一郎諸川 由実代上村 誠竹下 貴史太田 共夫木代 眞樹平川 義久渡部 廣行藤巻 英生長谷川 和夫
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1994 年 31 巻 8 号 p. 591-595

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抄録

老年期うつ病に見られる食欲低下にともなう低栄養状態は, 高齢者の身体的有病性の高さや身体的予備能力の低下と結び付き, 生命的危機状態に至りやすい. また, 貧困, 罪業, 心気などの妄想がしばしば認められ, 特にコタール症候群でみられる否定妄想や離人感も出現しやすく, その結果として自殺念慮を有する割合も高くなる. さらに, 遷延化しやすく, それに伴う治療薬物の増量および長期投与は, 薬物有害反応の増加に結び付きやすい. このような場合には, 電撃療法の適応が考慮されるが, 通常の電撃療法で引き起こされる全身けいれんによる身体への悪影響 (骨筋肉, 心血管, 呼吸器系など) が無視できないため, 全身麻酔下無けいれん電撃療法を試み, その有効性と安全性を調査した.
対象は聖マリアンナ医大神経精神科病棟入院患者で, DSM-III-Rによって大うつ病と診断され, 全身酔下無けいれん電撃療法を施行された26 (男9, 女17) 各, 55~79歳である. 臨床症状の評価は, Hamilton うつ病スケールを用い, 施行直前と最終施行後に評価を行った結果, 全例において得点の有意な減少すなわち臨床上明らかな改善が認められた. 症候別改善率をみると, 抑うつ気分, 精神運動抑制, 不安焦燥, 自殺念慮, 心気症状, 不眠の各症状は, 高率に改善しており, 特に, 自殺念慮に関しては改善率100%であった. 併発症としては, 健忘 (記憶障害) 16名, せん妄3名, 一過性不整脈1名が認められたが, 呼吸障害, 骨折などの骨筋肉系障害など致命的, 永続的な障害は認められなかった.
以上より, 各症例ごとに適応を十分検討したうえで, 安全性に配慮した全身麻酔下無けいれん電撃療法は老年期うつ病に対する一治療法として有用であると考えられる.

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