日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
先天性第V因子欠乏症の高齢者胃癌の1手術例
市川 英幸
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2000 年 37 巻 3 号 p. 245-249

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抄録

術前凝固スクリーニングで診断し, 胃癌, 胆石症の診断のもとに胃全摘, 胆摘を行った先天性第V因子欠乏症の1例を報告した. 患者は71歳女性で術前の凝固機能検査で, PT35.1秒, APTT109.8秒と延長し, 第V因子活性8%, 第V因子インヒビターは陰性, 循環抗凝血素スクリーニング試験で循環抗凝血素の存在は否定された. 家族歴で両親はいとこ同士の結婚であり, 患者の子供2名, 孫の1名が第V因子活性値は55~63%と低く保因者であった.
術前に貧血が認められたため, 新鮮血, 新鮮凍結血漿 (FFP) 輸血し, PT. APTTを改善し, 止血に細心の注意を払いながら胃全摘, 胆摘を行った.
術中出血に対してFFP, 新鮮血輸血をおこなって対処したが, 術中出血に悩まされることなく, 手術を終了した. 術後1日目のPT14.8秒, APTT40.1秒, 第V因子活性28%であり, 術後出血は認められなかった. 術後3日間はFFPを輸血したが, 創面からの出血がなかったので, 術後4, 5日目はFFPを輸血しなかったところ, PT, APTTが再び延長したため, 再出血を懸念して術後6.7日目にFFPを輸血した. 術後経過良好で, 術後21日目に退院した. 第V因子欠乏症を合併した大手術例に対しては, 術前, 術中は第V因子補充のため十分なFFPの使用が必要である. 術後のFFPの使用に関しては3~10日の補充を行う一方, 創面の出血の有無を注意深く観察する必要がある.

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