日本食品科学工学会誌
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市販トロミ付与水溶液のテクスチャー知覚の指標となる力学的特性―官能評価と機器分析を用いて―
黒飛 知香干野 隆芳矢守 麻奈
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ジャーナル 認証あり 早期公開

論文ID: NSKKK-D-24-00001

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抄録

本研究では,主原料の異なるトロミ調整食品(4種類)を異なる添加濃度(3区分)で調製した12種類のトロミ付与水溶液を用い,各試料のテクスチャーおよび嚥下特性を明らかにした.さらに,得られた官能評価値に対応する力学的特性について検討し,人がこれらの指標(力学的特性)に基づいてどのように知覚しているか推測した.(1)各試料の官能評価結果より,各試料のテクスチャー特性は大きく異なっていた.分散分析の結果,全テクスチャー項目(かたさ,飲み込みやすさ,べたつき(口腔内,喉の残留感))において全試料に有意な差が認められた.(2)SBE法で得られるσ0およびKの結果からは,トロミ調整食品ごとにトロミ調整食品の添加濃度の増加に伴う物性変化が大きく異なり,かたさと粘性のバランスが異なることが明らかとなった.一方,LST値およびSBE法から得られるn値では,トロミ調整食品の添加濃度の増加に伴って低下し,流れにくい特性に変化していた.(3)官能評価値と機器分析値の関連性からは,いずれの官能特性もSBE法から得られる見かけ粘度との相関が最も高かった.さらに,官能特性ごとに相関の高いずり速度が異なっており,イチゴジャムのテクスチャー特性20)と同様,トロミ付与水溶液においても舌の動き(ずり速度)を変化させて各テクスチャー特性を知覚していることが明らかとなった.かたさは,官能特性4項目の中で最も速いずり速度時の見かけ粘度と高い相関であった.そこで,このずり速度をShamaら16)の液状食品の粘度知覚領域に当てはめた結果,このずり速度に対応する「ずり応力」を指標としている可能性が示唆された.飲み込みやすさは,ずり速度11.6[s-1]時の見かけ粘度と高い相関が得られ,これらのずり速度は,飲み込みやすさの速さに関する先行研究18)19)の見解ともおおよそ一致した.べたつき(口腔内,喉の残留感)は,ずり速度5.1[s-1]時の見かけ粘度と相関が高く,これはイチゴジャム20)のべたつきと同程度の舌の動き(ずり速度)であった.以上より,べたつきはゾル,ゲルに関わらず同程度のずり速度時の見かけ粘度で知覚している可能性が示唆された.本研究より,トロミ付与水溶液のテクスチャー特性には力学的特性(見かけ粘度)が大きく影響していることが明らかとなった.また,SBE法がゲル状食品のジャム20)のみならず,ゾル状食品であるトロミ付与水溶液のテクスチャー特性の測定方法としても有用であることを示すことができた.

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