1995 年 9 巻 2 号 p. 218-222
胸腔内あるいは縦隔内甲状腺腫は甲状腺下極から上前縦隔内に進展した腫瘍としてよく知られている.今回著者らが経験した症例は, 術前の画像所見と経気管吸引細胞診から, 縦隔内に進展した悪性の甲状腺腫と診断されたものである.しかし, 手術所見から腫瘍は甲状腺右葉内に存在する甲状腺癌であることが判明した.腫瘍は気管軟骨に浸潤しており第1から第4までの4軟骨輪の合併切除が必要であった.腫瘍が上縦隔に存在したのは, 頚部の短い体型のために甲状腺組織がもともと胸骨後方に位置したことが原因であることが推察され, 体型を考慮した甲状腺の位置診断が重要であることが示唆された.また, 縦隔内甲状腺腫は良性であることが多いことから, 切除術式を選択するうえでも術前の慎重な診断が必要であることが痛感された.