園芸学研究
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栽培管理・作型
軟X線照射花粉を利用したヒュウガナツの無核果生産
廣瀬 拓也田中 満稔松本 正明濱田 和俊尾形 凡生
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2016 年 15 巻 3 号 p. 275-282

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抄録

軟X線を照射した花粉を受粉してヒュウガナツの無核果形成を誘導する技術の有用性を,慣行法である四倍体の‘カンキツ口之津41号’や‘西内小夏’花粉の受粉と比較して評価した.ヒュウガナツの慣用受粉樹である‘土佐文旦’と,‘カンキツ口之津41号’および‘西内小夏’の花粉に,500,1,000,2,000 Gyの軟X線照射して実験に用いた.
軟X線を照射した花粉の発芽率およびその花粉をネットで花粉遮断した‘宿毛小夏’に人工受粉した時の収穫時の着果率は花粉品種にかかわらず照射線量が高くなるにつれ低下する傾向がみられた.完全種子は無照射の‘土佐文旦’,‘カンキツ口之津41号’および‘西内小夏’花粉の受粉果では,それぞれ23.8個,0.4個および1.5個形成されたが,軟X線照射花粉を受粉すると,ほぼ消失した.種子長10 mmを超える大きな不完全種子も,無照射の‘土佐文旦’,‘カンキツ口之津41号’および‘西内小夏’花粉の受粉果では1.5個,3.9個および2.3個形成されたが,500 Gyの軟X線照射花粉の受粉果では0.3個,0.2個および0.1個と減少し,1,000 Gy以上の軟X線照射花粉の受粉果では消失した.顕微鏡観察において,無照射の‘カンキツ口之津41号’および‘西内小夏’花粉を受粉した‘ヒュウガナツ’果実では,一部の胚は受粉8週間後にも生存しているのに対して,軟X線照射‘土佐文旦’花粉を受粉した‘ヒュウガナツ’果実では健全な胚はまったく認められなかったことから,軟X線照射は種子の発達をより強く阻害するものと考えられた.軟X線照射花粉の受粉によりヒュウガナツ収穫果の果実重は小さくなった.ただし,この小果化は,高知県のヒュウガナツ市場で消費者が少核の小さな果実をより好むことから考えれば,果実の価値を大きく損なうものではない.以上の結果より,軟X線照射した花粉を受粉する方法は大きな不完全種子を残さない点において有用なヒュウガナツ無核化生産技術であり,照射線量は500~1,000 Gyが適当である.

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© 2016 園芸学会
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