高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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短報
自己身体定位障害が残存したまま自宅退院となった Bálint 症候群の一例 ~体性感覚を用いた動作の意識化と長期支援の有用性~
野村 心瀬々 敬仁甲斐 祥吾吉川 公正中島 恵子
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2019 年 39 巻 3 号 p. 373-378

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抄録

  2 度の皮質下出血により両側頭頂葉を損傷し, 自己身体定位障害と Bálint 症候群, 距離判断障害を呈した症例を経験した。回復期リハビリテーション病棟から自宅退院した後に介護保険での長期的な支援を継続した。発症から 15 ヵ月後の評価では Bálint 症候群と距離判断障害は残存したが, 自己身体定位障害による椅子の着座の困難さは改善していた。椅子への着座は, 座面を上肢で探索・接触し自己と椅子との距離や座幅を推測した後, 座面に触れた手に向かって臀部を近づけていく動作であった。本人からは「考えながら座っている」との発言があり, 意識しての遂行をうかがわせた。これらのことから, 体性感覚情報を中心に, 正常に機能している感覚モダリティーや知識, 記憶の情報を用いて, 意識的なオフライン処理の練習を行うことが望ましいと考える。Bálint 症候群と病識の欠如を伴う自己身体定位障害を呈した症例には, 医療・介護連携を通して, 長期的な視点に立脚した支援の提供が重要と考えられた。

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© 2019 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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