近来,企業の業績評価のメルクマールとして株主利益の最大化が注目されている.本稿では,配当割引モデルを基礎とする3種の企業評価モデル(キャッシュ・フロー割引モデル,EVAモデル,Ohlsonモデル)を取り上げ,それぞれのモデルに基づく業績評価指標(キャッシュ・フロー,EVA,残余利益)のいずれかが株主価値最大化に最も貢献し得るかを検討した.本稿では,会計利益と比較した場合のキャッシュ・フロー情報の有用性を批判的に検討し,その限界を明らかにした.その上で,会計利益ベースの業績指標が「株主重視」経営により適合的であることを示す.
本稿の結論は,次の二点に要約される.
(1)キャッシュ・フロー割引モデルの企業評価モデルとしての実用性・キャッシュ・フローの業績評価指標としての実用性はそれぞれ会計利益ベースの企業評価モデル・業績評価指標に比して低い.
(2)残余利益が理論的に株主利益最大化に最も直結する業績評価指標であるが,運用にかかるコスト・ベネフィットを勘案するとEVAも業績指標として有用たりうる.