本報告では,福祉の市場化(民営化)に関して,サードセクターの研究蓄積を土台としながら,労働統合型社会的企業を焦点にして三つの主張を展開する。第一に,社会政策分野では現物給付割合の高まりを背景として,国家と個人を媒介する諸組織の多様性を分析することの重要性が高まっており,そのためには,セクター単位での研究(セクター本質主義)は問題を抱えているということである。第二の主張は,「セクター本質主義」的な考え方に代わって,新しい枠組みとして,「制度ロジック・モデル」という,欧米などで蓄積のある新制度派社会学の概念をもとにした枠組みが有効である可能性があるということである。第三に,「制度ロジック・モデル」を用い,労働統合型社会的企業を分析するならば,少なくとも二つの形で制度ロジックの組み合わせによる組織形態を峻別でき,それらを区別することに一定の理論的・政策的意義が認められるということである。